東京高等裁判所 昭和41年(う)2108号 判決
被告人 宮沢貞夫 外五名
〔抄 録〕
所論は原判決が争議行為の本質を労務供給義務の不履行と解し、かついわゆるピケは平和的説得の範囲においてのみ許されるものに過ぎないと解し、延いて本件ピケを不当のものと解したのは法律の解釈適用を誤つたものであるという。
よつて所論に基き案ずるのに原判決が弁護人の主張に対する判断中この点に関し示しているところは相当であつて、何等法律の解釈適用を誤つたものとは認められない。所論はその性質上単に平和的説得のみをもつてしてはその目的は達せられないのであつて、ピケの正当性の限界は平和的説得か否かにあるのではなく、暴力の行使にわたらない限りにおいて、ストを実効あらしめるために採られた最少限度の手段ならば実力行使も正当範囲にあると見るべきであるとし、かつ本件においてとられた被告人等の行為はストを実効あらしめるためにとられた必要最少限度の手段であり、暴力の行使とは認められない旨主張するけれども、本件における被告人等の所為は原判決判示のとおり暴行行為に渉るものであつて、それがストを実効あらしめるためにとられた必要な最少限度の手段であるとは全く認められず法が保護する正当な争議行為と認めることはできないから論旨は理由がない。
ところで労働争議に際し、使用者側の業務行使を阻止するために採られた労働者側の威力行使の手段が正当な範囲を逸脱したものと認められ、延いて威力業務妨害罪を構成する場合において、その正当性の有無を決定するには当該事案における諸般の事情を被此勘案してこれを判断することを要することは誠に所論のとおりである。本件についてこれを見るのに、証拠によれば被告人等は工場の出入口のうちこの工場においてもつとも重要な乾燥部および冷凍部の出入口の二ケ所にピケ隊を配置し、気勢を示し残る出入口はすべて鉄扉を内部から電線針金等で緊縛して閉鎖し、当時工場内には多量の腐敗し易い凍豆腐の仕掛品が存在していたのは前説示のとおりで、これが残務処理は急を要するため会社側の者が争議期間中一一回に亘り工場内に這入ろうとするのを集団の力をもつて妨害し、その間被告人等において原判示暴力行為を行つたものであることを認めるに足りることは己に説明したとおりである。もつとも争議中会社側の者の工場内立入りを例外的に許したことはあつたが、それも入場を許可する人員はその都度管理者一名に限り、しかも残務処理作業の実施は勿論、機械に手を触れることまで禁止し、入場者には常に数人の組合員が付きそい監視していたものであることが認められるのであつて、かかる事情の下においては被告人等の判示威力行使の手段は正当な範囲を逸脱したものと解するのほかなく、右被告人等の行為は威力業務妨害罪を構成するものというべきであり、これと同趣旨に出でた原判決にはこの点においても何等法の解釈適用を誤つた違法はない(所論引用のいわゆる全逓中郵事件に関する最高裁判所大法廷の判決によつても右判断を左右するに足りない。)。
(石井 山田 山崎)